給食の食べ残しは、金額にするとどうなのか?
― 残菜率だけでは見えない学校給食の食品ロス ―
「今日の残菜率は5%でした」
学校給食の現場では、こうした数字を目にすることがあります。
では、この「5%」。
いったい何円分なのでしょうか。
例えば、1日5,000食、1食あたりの食材費350円、年間190日給食を実施する給食センターを考えてみます。
年間の食材費は、
5,000食 × 350円 × 190日 = 約3億3,250万円。
仮にその5%を単純に掛ければ、約1,660万円になります。
「年間1,660万円分も捨てているのか!」
……と言いたくなります。
しかし、実際にはそんな単純な計算はできません。
「5%残った」=「食材費の5%を捨てた」ではない
学校給食の残菜は、多くの場合、重量で把握します。
しかし、同じ100kgでも、ご飯100kgと肉100kgでは金額がまったく違います。
汁物なら水分も含まれます。
逆に、重量は少なくても単価の高い食材が多く残れば、金額で見た損失は大きくなります。
つまり、
「残菜率5%=食材費の5%を捨てた」
とは言えません。
それでも私は、この「何円分なのか?」という視点は、とても大切だと思っています。
なぜなら、残菜率という一つの数字を、別の物差しで見直すきっかけになるからです。
食品ロスは「何トン」だけでは見えない
消費者庁などが公表した2024年度の食品ロス量は、年間461万トン。
さらに、その食品ロスによる経済損失は約3.8兆円、温室効果ガス排出量は978万t-CO₂と推計されています。
つまり、食品ロスを単に「何トン捨てたか」だけでなく、
何円分なのか。
どれだけ環境負荷があるのか。
という角度からも見ようとしているわけです。
これは、学校給食の残菜にも通じる考え方ではないでしょうか。
重量だけで見る。
金額で見る。
環境負荷で見る。
栄養という視点で見る。
それぞれ違う景色が見えてきます。
私自身も「数字の見方」を研究してきた
私が袋井市で学校給食に携わっていた頃にも、「一つの数字だけで判断しない」ということを意識してきました。
例えば、学校給食の減塩です。
学校給食の基準変更に伴って食塩相当量を減らす際、
「味が薄くなれば、子どもたちが食べなくなり、残菜が増えるのではないか」
という懸念がありました。
そこで、実際に食塩相当量と残菜量の変化を分析しました。
その結果、食塩相当量を減らしたことと残菜量との明確な関係性は確認できませんでした。
残菜が増えなかった背景には、栄養教諭等による指導や、献立作成時の味付けの工夫なども影響している可能性があると考察しました。
「薄味だから残った」
一見もっともらしく聞こえます。
でも、実際にデータを見ると、そんなに単純ではなかったのです。
また、地場産物についても、単に「地場産物使用率○%」だけではなく、輸送距離などからCO₂排出量を計算し、その環境面での効果を「見える化」する研究を行いました。
その結果、地域産・県内産の食材を活用することで、輸送に伴うCO₂排出量を削減する効果が確認され、特に地域産の活用でその効果が大きくなることが分かりました。
同じ学校給食でも、物差しを変えると、違う価値や課題が見えてくるのです。
では、「残菜ゼロ」が正解なのか?
食品ロスを減らすことは大切です。
文部科学省の調査でも、回答した自治体の78.9%が調理場における食品ロス削減に取り組み、そのうち「残食を減らす献立の工夫」は65.3%で実施されていました。
しかし私は、学校給食で単純に「残菜ゼロ」を目標にすればよいとは思っていません。
残菜を減らすために提供量そのものを減らしてしまえば、子どもたちに必要な栄養量を確保できなくなる可能性があります。
人気メニューだけを出せば、残菜率は下がるかもしれません。
でも学校給食には、子どもたちがさまざまな食品や料理、地域の食文化に触れるという大切な役割もあります。
もちろん、無理に完食させることが目的でもありません。
大切なのは、
「残った」という結果だけを見るのではなく、「なぜ残ったのか」を考えること。
ではないでしょうか。
残菜率は「成績」ではなく「問いの入口」
なぜ、この献立は残ったのか。
量なのか。
味付けなのか。
食材なのか。
料理の組み合わせなのか。
学年によって違うのか。
食べる時間は十分だったのか。
食に関する指導とつながっていたのか。
そして、その残菜は、
何kgなのか。
何円分なのか。
どれくらいの環境負荷につながるのか。
そこまで見ていくと、「今日の残菜率は5%でした」という一つの数字から、学校給食を改善するための多くの問いが生まれてきます。
私は、**残菜率は学校給食の「成績」ではなく、「問いの入口」**だと思っています。
数字を測る目的は、単に数字を小さくすることではありません。
その数字の向こう側で何が起きているのかを考え、次の給食を少しでも良くしていくこと。
食品ロスという課題を考えるときも、
「残さず食べましょう」だけではなく、まず、残ったものをどう見るのか。
そこから考えてみることが、学校給食だからこそできる食品ロス削減の第一歩ではないでしょうか。
