熊本で経験した地震 ~行政の底力と、日常のありがたさを改めて感じた一日~

令和8年7月、私は全国学校給食・栄養教諭等研究協議大会に参加するため熊本県を訪れました。

全国から1,000人を超える学校給食関係者が集まるこの大会は、日頃から学校給食に携わる私たちにとって、情報交換や学びの場であると同時に、全国の仲間と再会できる貴重な機会でもあります。

前日の夜は、熊本の食文化を楽しみながら旧友との再会を喜び、翌日の大会を心待ちにしていました。

そして大会当日。

開会前には、熊本の人気者「くまモン」が登場し、会場は大きな拍手と笑顔に包まれていました。全国から集まった参加者が一体となり、「熊本に来られてよかった」と感じるような、とても温かい雰囲気だったことを今でも鮮明に覚えています。

しかし、その数分後、会場の空気は一変しました。

最初は演出かと思うような低い音。

その直後、大きな揺れが始まり、緊急地震速報が鳴り響きました。

ステージには大型スピーカーや照明設備が設置され、天井付近からは落下物もありました。決して安心できる状況ではありませんでしたが、その中で最も印象に残ったのは、熊本県教育委員会をはじめ、大会運営スタッフや熊本城ホール職員の皆さんの落ち着いた対応でした。

参加者を非常階段へ誘導し、繰り返し安全を呼び掛ける姿。

誰一人として慌てることなく、自分の役割を理解しながら行動していました。

私は20年間、行政職員として学校給食行政に携わってきました。

現在は独立し、外部から行政を見る立場になりましたが、今回改めて感じたのは「行政の底力」でした。

普段、行政は批判されることも少なくありません。

しかし、人の命を守るという最も重要な場面では、日頃の訓練や準備、そして一人ひとりの責任感が確実に生きていました。

行政だけではありません。

施設職員、警備スタッフ、大会関係者など、多くの方々がそれぞれの役割を果たし、一つのチームとして機能していた姿に、心から敬意を抱きました。

その後、大会は中止となり、帰宅困難者のために熊本城ホール内へ臨時避難所が開設されました。

私は一度ホテルへ戻りましたが、余震が続き、さらに一緒にいた仲間たちの不安も大きかったことから、安全性を考え、再び熊本城ホールへ戻ることにしました。

そこで見た避難所運営も、大変勉強になるものでした。

受付は色分けされた番号ごとに整理され、混乱を防ぐ工夫がされていました。

毛布、飲料水、非常食も迅速に配布され、多くの方が安心して過ごせる環境が整えられていました。

特に印象に残ったのは、ライフラインが維持されていたことです。

館内では電気が使え、エアコンも稼働していました。

トイレも通常どおり利用でき、施設の皆さんが電源コンセントを開放してくださったことで、多くの参加者が携帯電話を充電することができました。

災害時には、家族や仲間と連絡を取れることが何よりも大きな安心につながります。

避難所とは、単に「避難する場所」ではなく、「生活を続ける場所」であることを改めて実感しました。

この環境があったからこそ、多くの人が落ち着きを取り戻し、不安を少しでも和らげることができたのだと思います。

同じ会場にいた栄養教諭の先生方からは、「この経験を子どもたちに伝えたい」という声を多く聞きました。

その言葉を聞きながら、私は行政職員だった頃の視点で、この出来事を見ていました。

災害時、人を守るためには何が必要なのか。

誰がどの役割を担い、どのように連携するのか。

そして、日頃の備えや訓練がどれほど重要なのか。

今回の経験は、それらを改めて教えてくれました。

また、移植者として感じたこともあります。

私は腎臓移植を受けていますが、16年間の透析生活も経験しています。

普段から外泊するときには、予定より一泊分多く免疫抑制剤を持ち歩くようにしています。

今回はその備えが安心につながりました。

一方で、透析を受けていた頃であれば、この状況は全く違っていたはずです。

透析患者をはじめ、医療的支援が必要な方々にとって、災害時の医療体制や支援体制は命に直結します。

今回の経験を通じて、改めてその重要性を実感しました。

翌日も鉄道は運休が続きました。

情報を集めながら、タクシーで大牟田へ向かい、在来線で博多へ。

そこから新幹線に乗り、ようやく帰路につくことができました。

博多駅で食べた一杯のラーメンは、これまで食べたどのラーメンよりも安心感のある味だったように思います。

「無事に帰れる。」

その当たり前が、これほどありがたいことなのだと改めて感じました。

今回の出来事は、決して忘れることのない経験になりました。

行政の底力。

人を守る仕組み。

ライフラインの大切さ。

災害時に医療を必要とする方々への支援。

そして、何気ない日常の尊さ。

普段は当たり前だと思っていることが、決して当たり前ではないことを改めて教えてくれた一日でした。

最後になりますが、熊本県、熊本市、熊本城ホール、大会運営に携わったすべての皆様、そして災害対応に当たられた皆様に心より感謝申し上げます。

また、ご心配いただき、多くの励ましのメッセージをくださった皆様、本当にありがとうございました。

この経験を、今後の学校給食、防災、そして移植医療の普及啓発活動など、私自身の講演や活動を通して少しでも社会に還元していきたいと思います。

災害は、いつ、どこで起こるか分かりません。

だからこそ、一人ひとりの備えと、人を支える仕組みの大切さを、これからも伝え続けていきたいと思います。

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